登山のための車選び

登山を始めたら登山靴を買うように、車も山に合わせて買い替えたくなりますよね。そんなときの登山におすすめの車の選び方のお話です。

この記事では縦走を始め、アルパインクライミング、冬山、雪稜、アイスクライミング、沢登り、バリエーションなど、割とガチの登山を想定した車選びとなっています。

登山のための車選び
登山のための車選び

無雪期の一般登山の登山口までならどんな車でもいいのですが、冬山も行きたい、沢登り、バリエーション、アルパインクライミングもしたい、となると、凸凹の悪路や除雪されてない雪道、アイスバーンの山道などを走ることになるので、オフロードや雪道も走れるいわゆるクロカン(クロスカントリー)車が必要になります。加えて高速道路の長距離ドライブでのそこそこの安定性や快適性、人と荷物を十分に詰積める、なおかつ狭い林道や不整地に入れるコンパクトさと小回り性能という相反する条件も満たしたい。

全ての条件を満たすおすすめの車って、昔はあったんですよね。いわゆるライトクロカンって車です。しかし現行車種では皆無になってしまいました。需要がなくなったんでしょうか。クロカン車はみんなデカくなって小回りが効かない。コンパクトなSUVはオフロード性能が中途半端だったり、大人4人乗ると荷物があまり積めなかったり。現行車種から登山に合った車を選ぶなら、あるていど妥協する必要がありますね。

まずは登山のための理想の車の条件を挙げてみます。私の思う条件なので意見が違う部分もあるかもしれませんがご容赦ください。

  • 四輪駆動(フルタイム4WD)
  • 最低地上高20cm以上
  • ガソリン車
  • 大人4人と登山装備や荷物が積める
  • オンロードでの安定性と快適性
  • コンパクトで小回りが効く
  • スペアタイヤ(フルサイズ)
  • 故障が少ない

イメージとしては、大人2-4人と登山装備を積んで、現地までの高速道路の長いドライブから、夏や冬の日本アルプスに行ったり、八ヶ岳の美濃戸までのアイスバーンや轍で大きくえぐれた凸凹の道を上がったり、駐車スペースの他の車が停められない悪場や隙間に駐車したり、丹沢や安部奥などの沢の近くまで細い山道を入ったり、除雪されてない雪深い林道を走ったり、というのを想定しています。

他の条件として、車中泊ができる、スキー板が積める、などあると思いますが、自分はスキーはやらず、車中泊もたまにしかしないので、条件に入れていません。

四輪駆動

ダートや雪、アイスバーンの山道を走るなら四輪駆動が必須です。一般の舗装路ならともかく、急坂の雪道やアイスバーンは四駆じゃないと厳しいです。フルタイム4WDが理想ですがオンデマンド4WD、パートタイム4WDでもいいと思います。

不整地や雪道は四輪駆動車が最適
不整地や雪道は四輪駆動車が最適

最低地上高20cm以上

最低地上高(車高)は地面から車体の一番低い位置までの高さです。最低地上高が高いと道路の大きな凹凸や深い轍、雪道などを突破しやすいです。最低地上高が低いと車体の底をぶつけたり、タイヤが窪みにハマったりボディが雪に乗り上げてスタックしてしまうことがあります。

最低地上高が20cm以上あれば登山口までの大抵のオフロードを走行可能です。18cmでもなんとかなるかもしれませんが注意が必要です。16cm以下だと悪路で底をぶつけたり雪道でスタックする可能性が高く厳しくなります。

不思議なことにどこの悪路も20cm以上は深くならないんですよね。自分の中で長い謎でしたが、考えてみれば、20cm以上の窪みができるとほどんどの車が通れないから、それ以上えぐれない。もしくは通行止めになったり管理者が直すのでしょうね。

ガソリン車

ディーゼル車で温暖地から寒冷地に行くと、燃料の軽油が凍ってエンジンがかからなくなることがあるそうです。温暖地と寒冷地の軽油は違うので、ディーゼル車の場合は寒冷地で燃料を入れ直す必要があり面倒です。またEV車(電気自動車)は寒さに弱くバッテリー性能の低下、暖房による電力消費の増加で航続距離が短くなります。冬山登山に行くならガソリン車またはハイブリッド車がよさそうです。

冬山に行くならガソリン車かハイブリッド車
冬山に行くならガソリン車かハイブリッド車

大人4人と登山装備や荷物が積める

これは登山スタイルによりますが、複数人でクライミング、テント泊、雪山などによく行くなら、人と荷物を人数分だけ積める必要があります。荷物スペースが足りなければルーフラック(ルーフキャリア)をつければ解決は可能です。ソロや二人でしか行かないなら、小さい車も候補になりますね。

オンロードでの安定性と快適性

家から現地までは高速道路や一般道を長距離ドライブすることが多くなるので、オンロード(舗装路)もそこそこ安定して快適に走れると運転が安全で楽になります。必須の条件ではありませんが、エンジンのパワー、走行性能、居住性がそれなりにあるといいです。

コンパクトで小回りが効く

狭い林道や不整地を突破するとき、対向車とすれ違うとき、行き止まりで転回するとき、登山口の狭い場所に駐車するときなど、車がコンパクトで小回りが効くと安心です。そして雪道やアイスバーンの坂道では重い車だと自重で滑ってしまうことがあるので軽い車が有利です。

しかし近年は車が大型化してきてコンパクトなクロカン車はほとんどなくなってきました。コンパクトという条件を諦めれば選択肢が大幅に広がります。

スペアタイヤ

山奥の荒れた道でタイヤがパンクしたとき、パンク修理キットでは対応できない場合があり、JAFもすぐ来れないかもしれません。スペアタイヤがあればその場ですぐに対応でき、フルサイズのスペアタイヤなら交換した後も普通に走れるので安心です。しかし近年はスペアタイヤが積めない車が増えてきました。大型のクロカン車はスペアタイヤが積める車がまだ多いようです。

フルサイズのスペアタイヤ
フルサイズのスペアタイヤ

故障が少ない

山までの長距離ドライブや山奥で車が故障すると大変ですね。山奥ではJAFがすぐに来れないかもしれません。メーカーにもよりますが国産車は比較的故障が少ないようです。

トヨタ ラッシュは羊の皮をかぶった山羊

自分は登山のための車として、トヨタ ラッシュを購入しました。全ての条件を満たす車がラッシュしかなかったからです。今は現行車種ではなく、買った当時も販売終了から2年経っていたので、中古ですができるだけ状態の良い新しい年式をディーラーに探してもらいました。

ラッシュは一見ただのコンパクトカーに見えますが、実は足回りがすごくて本格的なライトクロカンと変わりありません。最低地上高20cmのフルタイム4WDで、フレームも頑丈にできています。ただしLパッケージは最低地上高が低いので注意。アプローチアングルやデパーチャーアングルも大きくオフロード性能が高い。エンジンパワーや居住性、荷物スペースも十分で、コンパクトボディに不釣り合いなほどタイヤが大きく、雪やアイスバーンにも強いです。ただし冬期テン泊クライミング装備4人分の荷物はさすがにスペースがきついですが。海外のラッシュの動画を見るとオフロードをガンガン走ってます。

日本では「見晴らしのいいコンパクト」とか言ってオフロード性能をアピールせず変な売り方をしたためか売れ行きはパッとしなかったみたいですが、寒冷地では今でもよく見かけますね。

トヨタ ラッシュ(Rush) X フルタイム4WD (オプション: エンジンイモビライザーシステム)
トヨタ ラッシュ(Rush) X フルタイム4WD (オプション: エンジンイモビライザーシステム)

登山におすすめの車種と比較

現行車種(2025年9月現在)で登山におすすめな車の候補になりそうな車を比較してみました。車種は主に国産の各メーカーの現行車種から、四輪駆動、ガソリンまたはハイブリッド、最低地上高18cm以上の車を挙げています。トヨタ ラッシュは販売終了していますが比較のため入れています。

車種オフロード最低地上高(mm)大人4人と荷物オンロードコンパクトスペアタイヤ
トヨタ ラッシュ
(ダイハツ ビーゴ)
200
トヨタ ライズ
(ダイハツ ロッキー)
180
オプション
トヨタ RAV4190-200
オプション
トヨタ ランドクルーザー200-225×
スバル フォレスター220
エンジン車
スバル クロストレック200×
日産 エクストレイル185×
ホンダ ヴェゼル170-180×
ホンダ ZR-V190×
三菱 アウトランダーPHEV195-200××
マツダ CX-5210
オプション
マツダ CX-60175-180×
オプション
マツダ MX-30180
オプション
スズキ ジムニー205×◎軽
スズキ ジムニーシエラ210×
スズキ ジムニーノマド210
スズキ クロスビー180
オプション
スズキ ハスラー180◎軽
オプション
ダイハツ タフト190◎軽×
車種オフロード最低地上高(mm)大人4人と荷物オンロードコンパクトスペアタイヤ

この表にない多くのSUVは最低地上高が18cm未満のため候補から外れています。

三菱デリカD:5は、他のメーカーにはないオフロードを走れるミニバンタイプで、旧モデルなら候補に入ってくるのですが、現行モデルは最低地上高が185mmに下がっていて、ガソリン車がなくなりすべてディーゼルになっているので候補に入れていません。

このままでは現行車種で条件にあう車がないので、条件を緩めましょう。

スペアタイヤを諦める

パンクして修理キットで対応できないときは仕方がないし頻繁には起きない、として諦めれば、スペアタイヤを条件から外せます。それでも他の条件で引っかかってしまいますね。

積載条件を緩める

2人以下でしか登山しないなら積載性が少なくても大丈夫ですね。ジムニーシエラやジムニーノマドが候補になります。オンロードのパワー不足を気にしなければジムニーや他の軽自動車も候補になります。

4人のときも、ルーフラック(ルーフキャリア)をつければ荷物スペースの狭さはなんとか解決できますね。

オフロード性能を緩める

最低地上高が18cm以上、アプローチアングルなどのオフロード性能もそこそこあればいいということにすれば、トヨタ ライズ(ダイハツ ロッキー)が良さそうです。ライズはオンロードではパワー不足感がややありますが、ラッシュの後継だけあって、現行のコンパクトカーの中ではトータルで山向けのバランスがとれていると思います。ただしオフロードは無理せず注意して走る必要があります。

大きめな車もOKにする

コンパクト性は妥協して、少し大きな車でもいいことにすれば、一気に候補が増えます。RAV4、フォレスター、CX-5など。一般にも人気のあるSUVが色々選べますね。

複数の条件を緩める

好きな車やメーカーがある、経済的な理由、駐車場スペース、家庭の事情、車中泊したい、など他の条件も考えると、複数の条件を緩める必要がでてくるかもしれません。そのときはある程度妥協しないとなりません。優先度の低い条件から外していって自分の理想に近い車を選びましょう。

車を購入したら

自分のこれから10年の登山スタイルを想像しながら、じっくり車を選んでみてください。車を購入したら、冬山登山に向けて車の冬山対策と冬タイヤの準備もしておくいいです。

車の冬山対策とスタッドレスタイヤ購入方法