沢登り初心者・入門者の方のための、沢登りに必要な装備の紹介です。

沢登りは、水流のある沢や滝、脆くて不安定な巻きや不明瞭なルートを登るので、滑落や遭難を防止するために身軽さとスピード、体力温存が重要になります。軽量化を優先しつつ必要な安全性を確保できる装備が基本になります。沢では大きな墜落は基本的にないので登攀ギアも強度より軽量化を優先します。
服装
沢登りの服装は、基本的に軽登山の服装で大丈夫です。速乾性の登山ウエアであれば濡れても歩いていれば乾いてきます。濡れては困る防寒着や着替えはビニール袋に入れます。
レインウェアは濡れないためではなく、防寒着として使います。ずぶ濡れになった服の上からレインウェアを着て、体温で温まった水の熱を外に逃がさないことで保温します。それでも寒い時はフリースを中に着たり、Tシャツを重ね着します。フリースは水を含みにくい素材がいいです。
- 乾きの早い長袖Tシャツと長ズボン
- ドライレイヤーシャツ
- レインウェア
- フリース、着替えのTシャツ(ビニール袋に入れる)
- アプローチ用の登山靴、ソックス、帽子
寒がりだったり、泳ぎ沢や冬の沢登りをするなら、沢専用のTシャツがあると安心です。ファイントラックのフラッドラッシュなら間違いありません。水中での保温性があり、ネオプレンと違い通気性があり蒸れないので陸に上がっても水切れがよく快適です。フラッドラッシュの下にドライレイヤーシャツを着るとより快適です。

クライミング装備がある人は
ハーネスやカラビナ、スリングなど岩のクライミング装備を既に持っているなら、とりあえず沢靴だけ用意すれば沢登りができます。沢靴だけ買って沢登りをやってみて、続けられそうなら他の沢装備を買い足せばいいでしょう。
沢靴
沢では水中の濡れた岩や苔のついた岩を歩くので、滑りにくい専用の沢靴を履きます。沢靴には靴底の違いにより大きく分けてフェルトソールとラバーソールがあります。またそれぞれに足袋タイプとシューズタイプがあります。
フェルトソールは苔も濡れた岩のどちらも滑りにくく同じように歩けるので、初心者に向いています。モンベルのフェルトソールの足袋タイプのシューズ「サワーシューズ」がリーズナブルで沢入門におすすめです。
フェルトソールにはシューズタイプの沢靴もありますが、高価ですしフェルトソールはラバーに比べて長持ちしないので、お金持ち向けです。

沢靴を初めて購入するときは、沢用のソックスも合わせて購入しましょう。沢用ソックスは厚手で保温性があったり、写真のモンベルのパイル生地のソックスは水抜けがいいです。足袋タイプの沢靴のときは先割れソックスにします。
フェルトソールは草つきや笹藪、ザレでは滑りやすいので、そのような巻きを歩くときのためにチェーンスパイクを用意するといいです。また長いアプローチや下山のときは、フェルトが減るのがもったいないのでアプローチシューズ(登山靴)に履き替えます。
- フェルトソール沢靴(足袋タイプ)
- 沢ソックス(先割れ)
- 軽量チェーンスパイク
ラバーソールの沢靴
ラバーソールは苔ではすごく滑りますが、苔のついていない濡れた岩はフェルトソールよりも滑りません。苔の少ない滑滝の沢や、登攀性の高い沢を登るときに向いています。そのような沢を登りたくなったら買い足すといいです。シューズタイプなら履き心地は登山靴とほぼ一緒で、アプローチも登山靴に履き替えずにそのまま歩けます。

写真はキャラバンの沢靴ですが、足首から砂が入らないように沢用スパッツをつけます。モンベルの沢靴ならスパッツ不要で足首から砂が入りにくいので、モンベルの沢靴が足に合えばモンベルの方がいいかもしれません。モンベルのシューズタイプの沢靴はややタイトなようです。
写真の沢用ソックスはネオプレン製で、保温性は高いですが蒸れます。パイルの足袋用沢ソックスでも構いません。
タワシは、苔のついた岩や滝を登るときに使います。ラバーソールは苔ではすごく滑るのでタワシは必須ですね。百均で買ったもので、同じく百均で買ったリールキーホルダーにつけています。
- ラバーソール沢靴(シューズタイプ)
- 沢用スパッツ
- 沢ソックス
- たわし
ザック等
ザックは何でもいいですが、アルパイン用ザックが軽量でいいです。ロープ、防寒着、ギア、水、行動食などが入るサイズだと大体30Lくらいが適しています。防水である必要はありません。濡れて困る物はビニール袋に入れます。外側にポケットがない方が藪でひっかけたり物を落としたりしなくていいです。

ハーネスは岩のクライミング用で構いませんが、沢では激しい墜落はあまりないので耐久性やクッション製はそれほど必要ありません。沢用ハーネスや簡易ハーネスにすれば軽量化できます。ギアをたくさん持つことがあるので簡易ハーネスでもギアループは4つ欲しいです。
- 軽量ザック 30L程度
- ヘルメット
- ハーネス
- 行動食、飲料水
ビレイデバイス、カラビナ
沢でのビレイデバイスはエイト環がおすすめです。ATCは水流のある滝でフォロービレイしていて水流に落ちたときすぐに解除できないので溺れる危険性があるため使いません。フォロービレイは必ずエイト環かムンターヒッチにします。エイト環がないときはHMSでムンターヒッチを使ってください。
エイト環はモンベルのものが標準的で入手しやすいですが、少し重たいです。軽量化したいときはマムートのエイト環「バイオニック8」がおすすめです。

安全環付きカラビナはHMSと変形D型合わせて4つあれば大体足ります。
フィックスロープでの登攀のため、タイブロックまたはプルージックコード等を用意します。
- エイト環と安全環付きカラビナ
- HMSカラビナ 2個
- 安全環付きカラビナ 2個
- タイブロックとオーバルカラビナまたはHMS
- プルージックコード
スリング
沢登りではスリングはたくさん使うのですが、リードしない場合はとりあえず60cmが2本、120cmが1本くらいあれば足ります。60cmスリングはできるだけ細い方がハーケンの穴に通りやすいです。できれば8mm幅を購入してください。入手しにくいならとりあえず10mm幅で。120cmスリングは太いナイロン製でもいいです。

- ダイニーマスリング 8mm幅 60cm 2本
- ダイニーマスリング 120cm 2本
小物
沢を登ると手が冷えたりふやけたり、藪漕ぎで傷ついたりと、結構手が荒れます。苔や笹で滑ったりもするので、沢グローブまたは軍手があるといいです。

ナイフはロープが絡まって溺れたときにロープを切るなど緊急時に使います。すぐに取り出せるようにしておきます。
コンパスと紙の地図はルーファイに使います。最近はスマホの地図アプリが手っ取り早くてよく使います。沢登りでは読図とルーファイがとても重要になるので、コンパスと紙の地図での読図もできるようにしましょう。
春から秋の沢はエリアによってはヒルがたくさん出ます。沢の中にヒルはいませんが、巻きやアプローチにうじゃうじゃ。丹沢、深南部などはヤバいです。ヒル避けを買うか、100mlの水に20gの食塩を溶かして20%塩水を作って携行します。
ホイッスルは水の音で声が通らないときの合図に使います。ホイッスルがなくて声が通らないときでも意思疎通ができるようにメンバー間で示し合わせておきます。
その他に、ヘッドランプ、緊急用のエマージェンシーキット、ツエルトなど。
- 沢用グローブまたは軍手
- ヘッドランプ
- 小型ナイフ
- コンパス、紙の地図(ビニールに入れる)
- スマホ、地図アプリ
- エマージェンシーキット
- ホイッスルまたは省電力トランシーバー
- ティッシュペーパー、持ち帰り用のビニール袋
- ヒル避けまたは20%塩水
- ツエルト
ロープ
沢では大きな墜落はあまりないので、ロープは軽量化のためできるだけ軽い(細い)ロープを使います。ダブルロープ規格のハーフロープ1本で十分なことが多いです。
ロープの長さは沢の状況や登攀スタイルによって変わります。ロープウェイ方式(ピストン方式)主体で登る場合、滝の落ち口付近に支点が取れない場合、懸垂下降が多い場合、沢の詳細が不明の場合などは50mロープ(径は7mm台前半)がいいです。フィックスロープ方式主体で登る場合、30mロープで足りるのがわかっている場合は30mロープ(径は8mm台前半)にします。
- ハーフロープ 7mm台前半 50m または8mm台前半 30m
30mロープの径が8mm以上なのは、フィックスロープの場合、細すぎるとプルージックコードやタイブロックの制動が効かなくなるためです。50mロープの場合はロープウェイ方式でロープが細くてもいいので軽量化のためできるだけ細いロープにします。メンバーのビレイデバイスが細径に対応しているか確認しておきます。
ただし登攀性のある垂壁などを登るときはきちんとシングルロープやダブルロープ2本を使います。
長い懸垂下降があったりメンバーが4人以上のときは、同じ長さのロープを複数本持ちます。

写真でロープをポリ袋に入れているのは、スピードアップのためです。沢では1ピッチだけロープを出してすぐにしまうのを何度も繰り返すので、その度にロープの上下を作ったり束ねてると時間がかかってしまいます。袋に予めロープを上下を作って入れておけば、登るときに袋ごと置けばすぐに登れますし、しまうのもロープを端から袋に入れるだけなので早いです。
リード装備
沢をリードするときは、プロテクション用のスリングやカラビナ、ギアが多数必要になります。
スリング、カラビナ
プロテクション用の60cmスリングとカラビナは同じ数だけたくさん持ちます。沢や巻きの状態によって4本から8本くらい。沢にボルトなんて基本的にないので、ヌンチャクやアルパインヌンチャクは不要です。灌木や岩、ハーケンにかけることになるので、バラバラの状態で襷掛けにしておくと取り出しやすいです。

120cmスリングは2本程度。お助け紐や岩や太い木に使います。
捨て縄は懸垂下降のときに必要なことがあります。6-7mm径の細引を3-7m程度。
- ダイニーマスリング 120cm 1-2本
- カラビナとダイニーマスリング 8mm幅 60cm 4-10個ずつ
- 捨て縄 6-7mm径 3-7m
ハーケン、カム類
沢ではハーケンをよく使います。カムやスリングでプロテクションが取れない滝でもハーケンなら打てることがよくあります。
ハーケンでよく使うのは、薄くて短めのクロモリハーケンが2枚、アングルハーケンが1枚程度。アングルは広めのクラックに使います。製品はブラックダイヤモンドのナイフブレード#2、アングルはモチヅキのクロモリハーケンVLあたりがおすすめですが欠品だったり販売終了だったりして入手しにくくなっています。厚めのハーケンや長めのハーケンは重たいので持たないことが多いです。ハーケンには回収のための細引をつけておきます。

ゴルジュハンマーは沢用のハンマーです。ハーケンを打ったり、回収したり、アックス部分は草つきや悪い巻きや詰めを登るときに使います。ミゾーのロカが定番です。穴ありならカラビナやスリングを通せます。軽量のチコもありますが、チコだとハーケンを打ち込むのに筋力が必要で大変なのでパワーのある人向けです。ロカの方が重さで打ち込めるので力が要りません。フォロワーもハーケン回収のためハンマーが必要です。
カムはキャメロットの#0.4-#2までをよく使います。滑滝が多い沢では小さいサイズの#0.2-#0.5を使い、その他の沢では#0.5-#2が多く、チョックストーン滝では#3を使うこともあります。軽量化したい場合は写真のようにサイズを1つ置きに半数だけ持ちます。カムは水中でも効きますが、苔でヌメった面では滑ります。ナッツを使うこともよくあります。
- ゴルジュハンマー
- ハーケン 2-3枚
- カム
- ナッツキー
- ナッツ
泳ぎ沢
1日中、水に使っているような泳ぎ沢では体が冷えるので、保温性のある沢用Tシャツを着るのがおすすめです。写真はこの記事の最初に紹介したファイントラックのフラッドラッシュ。これでも寒い場合はネオプレンのウェアを着ます。自分は夏ならフラッドラッシュだけで1日中水に使ってても大丈夫でした。

泳ぎが苦手な人、水流が強い泳ぎ沢などでは、ライフジャケットを着るのが安全です。写真は型式承認品ではないフローティングジャケットですが、自分には十分でした。吹き込み式タイプが軽量コンパクトで沢登りにおすすめです。

- ライフジャケット
沢泊装備
沢で泊まる場合は、ツエルトかタープ、その他のテント泊装備を持っていきます。ザックは50Lくらいが必要になります。
ツエルトかタープかは沢の状況によって選びます。タープは広くて開放的なので焚き火や炊事をするのに動きやすいですが、雨のときはツエルトの方が濡れにくいです。どちらも設営にポールは使わず、ロープを木に張って設営します。広くて平らな幕営地があるならテントも可能ですが、装備は重くなります。
- ザック 50L程度
- ツエルトまたはタープ
- シュラフ、マット
- 着替え
- コッヘル、カトラリー
- クッカー、ガス缶、ガスヘッド
- 食材、プラティパス
- ライター、着火剤、小型のノコギリ
シュラフは真夏の低地なら不要なこともありますが、沢筋は気温が低いので高地のときは夏でもシュラフがあった方がいいです。
濡れた服は焚き火に当たりながら着乾かしますが、乾き切らないときや寒いときは乾いた服に着替えます。
焚き火をするときは、木が湿ってることが多いので着火剤があった方がいいです。着火剤があれば雨が降っていても火をつけられます。小型のノコギリがあると長い倒木を薪にしやすいです。
以上、沢登りの装備を紹介しましたが、装備が揃っていても沢登りの技術や経験が伴わないと危険なことがあります。まずは経験者に同行して学びながら、沢登りを楽しみましょう。
Now loading...